聲にこめられている憎惡

 聲をふりしぼつた。聲にこめられている憎惡に間違いはなかつた。佐々兼武の「ほんとはルリは貴島に惚れてるんじやないですかね」というような事が、當つていようなどとは全く考えられなかつた。第三者にはまるでわからない貴島とルリとの間の關係がそこにはあるらしい。それを多少でも掴もうとして、いろいろの角度からたずねて行つても、ハッキリした答えは何一つ得られなかつた。氣の少し變になりかけた、カンのきつい子供を相手にしているようなものであつた。あぐねきつて私は、尚も喋り立てている彼女の顏を眺めているだけになつた。「言葉をはさんですみませんが、貴島君、今どこに居るんですか?」 わきから國友がヒョイと言つた。ルリはその方を見たが、すぐには返事をしない。私はドキリとした。「何ですの?」「貴島君、どこに居ります?……あなた御存じでしよう?」「知つています。………だけど、あなた、どなた?」 私は二人を簡單に引き合わせた。國友大助の名を聞くと「あ!」と口の中で言つてルリは例の強い視線で國友の顏を突きさすように見た。「私の事を貴島君何か言いましたかね? ハハ、ハハ。………いやね、私あ大至急貴島君に會わなきやあならないんだ。横濱はどこです?………あなた知つてるんでしよう教えて下さい。……いや、惡いようにはしないから」 石になつたようにルリは口を開かない。ランランと輝く眼で國友を見つめている。その中に、ヒョイと立ち上つた。同時に「失禮します先生」言うなりスッと室を出て玄關で靴を突つかけるや、表のドアを突き開けて忽ち小走りに驅け出した足音がした。速い。 國友は、ちよつとの間苦笑していたが

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