フテブテしい鬪志のようなもの

 相手が私を脅迫にかかつているのではない事はわかつていた。が、彼の言う言葉の意味がドス黒くひびくのである。それに對して久しぶりにフテブテしい鬪志のようなものが私の胸の中に萠して來た事も事實だつた。「だがねえ國友君、僕は思うんだ、君達のように生きている人間は、いずれにしろこの世の中でグレハマになつた人達だと思うが、それは僕にわかる。非難しようとは僕は思わない。だけど貴島のような人間も或る意味でグレハマになつた人間じやないかな? 道筋は違うがグレハマになつたという事では同じじやあないだろうか? その君達が貴島を目の敵にしていじめるのは、當らないないと思うがどうだろう? 可哀そうじやあないだろうか? 君達は、いわば、好きでそうなつた人達だ、貴島は追いこまれて、仕樣ことなしにそうなつた男だ。可哀そうだと思つてくれないもんだろうか?」「………あなたの言う通りかも知れない。貴島という男のしている事を見ると、必ずしも黒田組の爲にと思つてしているとばかりとは思えない事がありますからね。こんだの一件についても、黒田んとこのいい顏のやつで、格別わけもないのに貴島から斬られた奴がいるんですよ。………私に對しても貴島は別に敵意は持つていないようです。する事がデタラメなんだ。キチガイだと言つてる奴もいます。………追いこまれた人間だと言われれば、わからない事あないような氣もします。私は別に含む所はありません。然しそれとこれとは別でね、私んとこの連中は、黒田が相手にならなきやあ、仕方がないから貴島をとりつめる以外に仕方がないという腹だし、もう今となつては、私が何か言つても、どうにもならないかも知れませんね。川の水が流れるようなもんで、こんなこたあ、あなたもとつくに御存じだ」 昔から國友という男は正直な男であつた。腹に無い事は絶對に言わないし、一旦言つた事が違つたりもしない。それを知つているので私は私としての精一杯の氣持をこめて貴島の爲に話した。それに對して國友ははつきりした返事はしない。然し私の意のあるところを充分理解したらしいところがあつた。次第に陰氣な誠實な眼つきになつて、しんみりと口數も少なくなつた。このような種類の男について誠實などという言葉を使うと人は異樣に感じるかもしれぬ。しかし私の知つている限り、他の連中のことは知らず、國友大助ほど誠實な人間は、それほど多くは居ないのである。私の頼みは七八分通り相手の容るるところとなつた氣がした。然しその時、思いがけない、まずい事が起きてしまつた。 出しぬけに綿貫ルリが飛びこんで來たのだ。

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