理由が無いことはありません

 でも僕は、あなたに何を語ろうとしているのでしよう? それから、なぜ、あなたに對して僕は語らなければならないのでしよう? 理由が無いことはありません。Mさんの事をもつとくわしく知りたいと言うことです。そしてMさんの友達や知つていられた人達のことを、なるべくたくさん僕は知りたいのです。その譯は、あとで聞いていただきます。とにかく僕には、その必要があるのです。Mさんの友人の方々の中で、Mさんと一番深い所でつながつていた友人の一人が、あなたなんです。その事は生前のMさんが幾度か僕に話されたので、僕は知つているのです。Mさんは、時によつてあなたの事をケナされました。「あの男は馬鹿だ」と言つて、ペッとツバキを吐き出された事だつてあります。又、時によると、あなたを世の中で一番正直で立派な人間のように語られる事もありました。かと思うと、あなたほどエタイの知れない、冷酷な、憎むべき動物は居ないと言つて、憎み切つているように語られました。そして、そんなふうに、いろいろにあなたを語られるあらゆる場合に――憎々しい口調で語られる場合にもです、Mさんが腹の底から信じていられることがわかりました。まるで、戀人のことを語るようにMさんはあなたに就て語られましたのです。 その事を、僕は一度Mさんに言つてやつたことがあります。するとMさんは怒り出して「君なんぞに何がわかるか。あんな奴を、俺が好いてたまるか! あれは惡魔みたいな野郎だ」と言つて、僕の額をゲンコツでゴツンとこずかれました。醉つてもいられましたが、惡魔だと言われるのです。そのあなたを、やつぱり、戀人のように大事に思つていられるのです。その二つが、その時分の僕には、何のことやら、よくわかりませんでした。だからMさんが醉つてデタラメを言つていられるのだと思つていました。それがデタラメでは無かつたのだ。兩方ともホントだと言う事が、ちかごろになつて僕にすこしわかつて來たのです。僕は急にあなたに會つてみたくなつたのです。そして先日訪ねて行つたわけなんです。 どうも、うまく書けません。頭が惡くなつて、ペンの先がチラチラして、順序がうまく立たないのです。

— posted by id at 12:48 pm  

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